はじめに
近年、中国の若者文化の中で、「流麻(リュウマ)」と呼ばれる二次元グッズが爆発的な人気を集めています。透明なアクリル板の中を色とりどりのラメが流れる美しいオブジェですが、その本質には「DIY文化」「ストレス解消」「IP(知的財産)愛」といった要素が融合しており、SNSを通じて急速に広がりました。本記事では、この「流麻」の誕生から製作方法、流行の背景、そして日本との文化比較まで詳しく解説します。

- 「流麻」とは何か?──定義と基本構造
流麻(正式名称:流砂麻雀)は、二次元キャラクターや風景をデザインしたアクリル板の内部に、ラメや閃光粉を封入した手作りグッズです。名称の「麻雀」は形状が牌に似ていることに由来しますが、実際の麻雀ゲームとは無関係です。
構造の特徴
- 素材:上下2~3枚のアクリル板をUV接着剤で固定し、中間層に「流砂油」とラメを充填。
- 視覚効果:ひっくり返すとラメがゆっくりと流れ、キャラクターの背景が輝く「動的ビジュアル」を実現。
- カスタマイズ性:アクリルの形状(円形・四角・窓枠風など)やラメの種類、背景イラストを自由に組み合わせ可能。
例:『原神』のキャラクター・魈(シャオ)をモチーフにした流麻では、緑色のラメで風の動きを表現し、夜光塗料で星空効果を加えるなど、多層的なデザインが人気です。

- 流麻が「破壊的」に流行した理由
(1) DIY文化と「軽手芸」の融合
流麻の最大の特徴は、手軽さと創造性の両立にあります。材料キットは淘宝(タオバオ)で10元(約200円)から購入でき、初心者でも2時間程度で完成できます。
制作工程は「調粥(ラメの配合)」「アクリル板の貼り付け」「UV硬化」とシンプルながら、以下のような心理的満足感を生み出します:
- 没入感:集中して作業する「マインドフルネス効果」。
- 達成感:完成品をSNSで共有し、称賛される喜び。
- ASMR的癒し:ラメを攪拌する音やアクリルフィルムを剥がす快感が動画コンテンツとして人気。
(2) 二次元IPとの相乗効果
流麻は『原神』『明日方舟』『天官賜福』など人気IPのファンアートと結びつき、「推しを輝かせる」手段として進化しました。例えば:
- キャラクター特性の可視化:『呪術廻戦』の五条悟をモチーフにした流麻では、青いラメで「無下限呪術」の宇宙空間を再現。
- 公式コラボ:2024年には『光与夜之恋』が公式流麻を発売し、プレミアム価格で完売。

(3) ソーシャルメディアの影響力
抖音(TikTok)や小紅書では、#流麻タグの動画が累計2.7億回再生され(2023年時点)、以下のようなコンテンツが拡散されました:
- 「見ているだけでも癒される」制作過程動画。
- 技術革新:タッチパネル対応、磁気浮上、AI音声連動など「工芸の進化」が話題に。
- ネタ要素:「無骨鶏爪(骨なし鶏足)」「高数教科書」などサブカルネタを流麻化する「万物皆可流麻」現象。

- 流麻DIYの具体的手法とコツ
材料の選び方
- 流砂油:流速別に「快速」「中速」「慢速」があり、雪景色には慢速油が適する。
- ラメ:粒子サイズや比重で流れ方が変化。夜光塗料を使えば星空表現も可能。
- アクリル板:中国では雕窓(伝統的な窓枠模様)型など200種類以上の形状が流通。
失敗しない技術ポイント
- 気泡対策:ラメを油に十分浸し、静置して気泡を除去。
- UV接着のコツ:圧迫せず軽く置き、はみ出した接着剤はライト硬化後に除去。
- デザイン設計:背景・キャラ・前景の3層構造で立体感を強調。
事例:B站(bilibili)の人気クリエイター・霜茶は、「雷電将軍」の流麻で、紫色のラメに稲妻模様のアクリルカットを重ね、30万再生を達成しました。
- 日本との文化的比較──「三次創作」を巡る差異
流麻は中国発の文化として、日本の同人市場にも影響を与えつつありますが、以下の点で差異が見られます:
材料調達の難易度
- 中国:淘宝や拼多多で「初心者キット」が容易に入手可能。
- 日本:アクリル枠の規格が少なく、流砂油の種類も限られる。
著作権への姿勢
- 中国:非公式ファンアートを流麻化する「三次創作」が一般化。多くのイラストレーターは無料で二次利用を許可。
- 日本:公式が二次創作を厳格に管理するため、流麻の自作は「三次創作」として別途許可が必要。
市場反応
雅虎知恵袋では「中国式流麻の作り方を教えて!」という質問が頻出。あるユーザーは「B站の動画を参考にしたが、材料が揃わず断念」とコメントしています。
- 流麻が映す中国Z世代の価値観
(1) 「私人訂制」──パーソナライゼーションへの欲求
流麻ブームの根底には、画一的な商品への反発があります。若者は「自分だけの推し周辺」を作ることで、IPへの愛を個性的に表現します。
(2) ストレス解消ツールとしての機能
ある調査では、流麻制作の動機として「仕事や学業からの気分転換」(68%)、「手を動かす癒し」(52%)が挙げられました。
(3) UGC(ユーザー生成コンテンツ)経済の隆盛
小紅書(rednote)や抖音(Tiktok)では、流麻クリエイターが広告収入や受注制作で収益化。トップクリエイターの月収は2万元(約40万円)に達する例も。
- 今後の展望──「流麻2.0」へ向けて
2025年現在、流麻は以下の進化を遂げつつあります:
- テクノロジー融合:AR連動でキャラクターが流麻内で動く「デジタル流麻」の実験。
- 海外展開:東南アジア向けに「哪吒」「白蛇伝」テーマの商品を開発中。
- サステナビリティ:生分解性プラスチック素材の採用が検討段階。

おわりに
流麻は、単なるオブジェではなく、中国の若者が「創造の自由」「IP愛」「ストレスマネジメント」を追求するカルチャーの縮図です。その流行は、デジタル時代における「手作りの価値」を再発見させる現象と言えるでしょう。日本でも、同人展やハンドメイドマーケットで流麻の登場が増えるかもしれません。今後の展開から目が離せません。